記録として残るオーストラリアの歴史には現在まで続く原住民との関りがあります。
その歴史のひとつに今回紹介するNative Institutionがあり、先日紹介したLand Grantの話に出てくるColebeeの家族もそれに関係しています。
Blacktown Native Institution
植民地支配を行っていた国々は、植民地での自国の活動を有利にさせるために先住民の教育を実施しています。日本も中国・朝鮮・台湾などを併合した際に日本語や日本文化、神道を学ばせる教育を実施していましたが、18世紀頃から領土拡大をしていたイギリスのやり方はかなり強引だったようで、言語や宗教、伝統的な慣習など自国のものを教育するために、先住民の子供たち(次世代の人間)を親から隔離し寄宿学校に入れて教育をしました。
有名なところで「カナダの先住民寄宿学校」では現在でも当時収容された身元不明の先住民の子供たちの遺骨が敷地から発見されるというニュースがでるほど、子供たちにとって厳しい環境だったと書かれることが多いです。
オーストラリアでは「Stolen Generation」という歴史的なキーワードがありますが、これは先住民の子供たちを強制的に親から引き離し収容した時期を指し、今回話題にするNative Institutionはその起源ともなる出来事になります。
パラマタにて
1788年にシドニーからイギリスの入植が始まりましたが、当時の指導者は「友好的に先住民たちと交流する」ことを(本心かどうかはわかりませんが)伝えていたようです。しかし実際は開拓した農民と先住民との関係は悪く、多くの暴力や武力行使が行われています。(興味があればHawkesbury and Nepean Warsを調べてください。)
この関係を改善するために先住民の子供たちに先進的な教育を与えようと考え、1815年に少人数のアボリジナニの子供たちを受け入れ、パラマタに学校を作りました。この時、Land Grantで名前の出たColebeeの妹Maria Lockが初期の生徒としてこの学校に参加していて、当時のイギリス出身の子息を含めても優秀な生徒だったと記録されています。
その後、1816年のLand Grantも関係し、現在のブラックタウン周辺地域に先住民が多く集まっていたため、1823年にBlacktownへ学校が移設されます。
ちなみにMaria Lockは、このパラマタの学校校長William Shelleyに預けられ上述のように優秀な生徒であり、さらに記録されている歴史として、白人と最初に結婚した先住民女性となっています。Land Grantで獲得したColebeeの土地ですが、彼の死後、Mariaはその土地を継承し彼女の子孫たちによって分配されています。
ブラックタウンでは
結果としてですが、パラマタにあった時期は生徒がヨーロッパ式の教育を身に着けることができたため「成功」と考えられているのに対して、ブラックタウンの時期は「失敗」とみなされています。
そして学校は1829年に閉鎖されてしまいます。
現在では空き地となり、そんな施設がかつてあったこともわからないほどです。Wikipediaに記載されている当時の建物の様子はこのような感じです。
学校は2階建てで、上の階に4つの寝室、下の階に大きな寝室2部屋と小さな寝室4部屋、屋外に2部屋、またキッチンと厩舎があったそうです。この施設の定員は60名とされていたそうなので、同じ部屋を複数の子供たちが使用していたことになります。
ブラックタウン期では、強制的な色が強くなったようで、入学のために脅迫的に集められた子供たちもいたり、入学後、男子は16歳、女子は14歳まで施設から出ることを許されませんでした。そのため、子供たちの逃亡や親による連れ戻し、それに対する学校側の過度な締め付けなど、現在でも「悲劇的な歴史」として扱われます。
このNative Institutionがその後の先住民同化政策の実験とも考えられ、先ほど話した「Stolen Generation」が終わる1970年ごろまで差別的な政策が続くことになり、2023年現在でも先住民の人権問題で大きく影響しています。
2023年10月14日に14年ぶりとなる国民投票が行われます。
今回の投票は(私がよく理解できていないので書くのをためらうのですが)先住民らの意見「VOICE」が今後の先住民に関する政府の政策に反映できるかを問うものになります。
アルジャジーラのニュースがよく説明されていると思うので紹介します。<LINK>
私は歴史的には差別を受けてきたのだろうと理解しつつも、まだまだ先住民の方々の現代の暮らしについてよくわからず、どんなことを改善してほしいのかもよくわかりません。
ただマレーシアのマレー人への優先的な待遇「プミプドラ政策」でマレー人の勤労力や勤勉力が阻害されている事実を知っているので、この「VOICE」が「飴」とはならず、先住民の方々の将来に有効に使われて欲しいと思います。
参照文献
- Wikipedia - 失われた世代
- Wikipedia - Blacktown Native Institution Site
- Wikipedia - Maria Lock
- Wikipedia - Canadian Indian Residential School System
- Blacktown Native Institution Project - Biography of Maria Lock
- Blacktown Native Institution Project - History
- Dictionary of Sydney - Parramatta and Black Town Native Institution